生理学①
神経とシナプス
膜電位とイオン
膜電位
神経細胞などの興奮性細胞は、細胞膜にイオンを移動させる機能があり、
エネルギーを使って濃度の低い方から高い方へイオンを移動させる能動輸送と
濃度勾配に従ってイオンを通す拡散がある。拡散にはイオンチャネルが存在している。
常時、3個のナトリウムイオンNa⁺を細胞外に、2個のK⁺を細胞内に輸送しているナトリウムポンプが働いており、結果細胞内にK⁺、細胞外にNa⁺が高密度に存在している。
このように細胞内外におけるイオンの異なる濃度分布が生じることで細胞膜を境にした電位差(電圧)が発生し、これを膜電位と呼ぶ。
非興奮時を静止電位といい、細胞膜外電位を0mVとすると細胞内電位は-60~90mVとなっている。
静止状態ではKチャネルを通ってK⁺が細胞外へ流出する。(Kリークチャネル)
このプラスの荷電の流出により細胞内が負の電気的勾配が生まれK⁺の流出が抑制される。この濃度勾配と電気的勾配が釣り合うとK⁺の流出はとまる。=平衡電位=静止電位
すなわちK⁺の透過性上昇に伴い上昇する。
活動電位
細胞膜に対する刺激により発生する電位。
静止電位からプラスの方向に移行する脱分極電位(⇔負の方向;過分極)であり、Naチャネルが開口してNa⁺が細胞内に流入した結果発生する。
神経細胞におけるNaチャネルでは50mVに達し、前か無かの法則にしたがい、途中の値をとらない。
活動電位後はKチャネルが開口して元の電位に戻る。(再分極)
活動電位は一回発生すると次に発生するまで、不応期が存在する。
シナプス
神経細胞同士が接合した部分をシナプスと呼ぶ。間のことをシナプス間隙(20nm)と呼ぶ。
情報伝達の仕組みとして、神経伝達物質と呼ぶ化学的物質を介して行われる。これはシナプス小胞で蓄積される。
軸索を伝導してきた活動電位は、終末部においてCaチャネルの働きによってCa電流を生じ、シナプス小胞をシナプス前膜と融合させ、間隙に神経伝達物質を放出する。
伝達物質はシナプス後膜に存在する特異的受容体と結合する。その時電位が発生し、それをシナプス後電位といい、興奮性と抑制性がある。
シナプス後電位
興奮性シナプス後電位(EPSP):脱分極電位
↳アセチルコリン、ドーパミン、グルタミン酸、P物質、セロトニンなど
抑制性シナプス後電位(IPSP):過分極電位
月1冊は本を読んでいくシリーズ #4 スタンフォード式 最高の睡眠 西野精治
- 0章 よく寝るだけでパフォーマンスは上がらない
- 1章 人はなぜ「人生の3分の1」眠るのか
- 2章 夜に秘められた「黄金の90分」の法則
- 3章 スタンフォード式 最高の睡眠
- 4章 スタンフォード覚醒戦略
- 5章 「眠気」を制する者が人生を制す
睡眠は「量より質」
量では解決しない
『最高の睡眠』⇒「脳・体・精神」を最高のコンディションに整える。覚醒と睡眠はセット
0章 よく寝るだけでパフォーマンスは上がらない
睡眠負債が蓄積されている→睡眠負債の返済でパフォーマンス向上
貯まっていくと、マイクロスリープ(瞬間的居眠り)がみられる。
=防御反応、日本人に多い
・時計遺伝子という遺伝でショートスリーパーか決まってくる
そのため、その遺伝子を持っていない人は寝ないでいると
・寿命が縮まる
・太る→インスリン低下、レプチン低下、グレリン上昇、交感神経亢進し高血圧etc
などのデメリット多い
1章 人はなぜ「人生の3分の1」眠るのか
「認知行動療法」
=①正しい知識を得る
②翌日の活動の質、パフォーマンスを上げるための行動付け
正しい知識
①脳と体への休息
ノンレム睡眠時(Non Rapid Eye Movement;脳波非活動・・・徐派)、食後は副交感神経優位
②記憶を整理・定着
レム睡眠はエピソードを定着させる
1回目のノンレム睡眠は嫌な記憶を消去
浅いノンレム睡眠は手続き記憶を定着化
③ホルモンバランスを調整
成長ホルモンやプロラクチン
④免疫力を上げる
⑤脳の老廃物を取り除く
脳せき髄液150㏄ 1日4回入れ替える。アミロイドβ貯留⇒アルツハイマー型認知症へ
睡眠時無呼吸症候群やいびきも体の何らかのサインとして出現している
2章 夜に秘められた「黄金の90分」の法則
目を閉じて10分でおおよその人は入眠⇒ノンレム~約90分(~120分)後レム睡眠
この90分間に様々なメリットが存在する
黄金の90分のメリット
①自律神経が整う
②グロースホルモンの分泌
③脳のコンディションが良くなる
黄金の睡眠を得るための2つのスイッチ
☆体温
睡眠時
体温(深部体温)は下がる⇔皮膚温度(手足)は上昇(放散熱を起こすため)
この2つの差を2度以内にする
☆脳
できるだけ休める
スマホやPCは✖⇒覚醒につながるから
3章 スタンフォード式 最高の睡眠
上記の体温について
皮膚温↑、深部温↓
睡眠時の体温管理にすること
①90分前の入浴
②①が難しければ足湯
③室温(睡眠時は靴下履かない)
脳
①モノトナス法則
単調なことしかしない
②ルーティン化
ベッドは寝るところ!を習慣化
スマホやストレッチなどのやりすぎも禁物
覚醒物質、早く寝るというのは人間にとって難しい
そのため、早く起きることを意識し、黄金の90分の確保を目指すことが賢明
4章 スタンフォード覚醒戦略
①光
人間のサーカディアンリズムは24.2時間
これを調整する役割がある
②体温
入眠時とは反対に深部温↑、皮膚温↓
戦略
①アラームを2つ設定し、20分隔で実施
1つ目は微音にし、覚醒の準備
②眠りの誘惑物質の断捨離
あさのひかりでメラトニン分泌を抑える
③はだし朝活
上行性網様体路を刺激
・皮膚入力↑
・皮膚温↓
④ハンドウォッシュ
⑤咀嚼力
⑥汗だくを避ける
⑦コーヒーを飲みカフェインを摂取する
⑧大事なことはAMに行う
⑨食事はきちんと摂取
⑩冷やしトマト
⑪金の眠りになる酒を飲む
5章 「眠気」を制する者が人生を制す
アフタヌーンディップ
①睡眠負債
②体内時計
これらが問題となり午後の眠気が出現しているとされる
そのため、ランチは関係なし
空腹はホルモン↑、覚醒↑効果あり
覚醒向上にむけて
・会話
・覚醒ニューロンの使用
・咀嚼
・冷やす
などが対策として挙げられる
仮眠術
・20分の仮眠は効果的
・better than nothing
脳卒中後の回復メカニズム⑤
脳損傷後の回復促進因子
脳卒中後の機能回復に及ぼす因子として、
梗塞の大きさ、部位、既往歴、重症度、急性期の介入の量や質、介護人や経済面などの環境などがあげられる。
ここでは、リハビリテーション内容(課題)について着目していく。
反復練習
目的とする動作を習得するには、繰り返し練習することが重要な要素となる。
→CVAもあてはまる。
(Nudoらの研究)使用回数と改善の間に相関アリ。
麻痺患者の使用頻度を調べた研究
・リハビリ場面での使用頻度
上肢・・・32回(PT:12±3、OT:41±8)
下肢・・・357歩(PT:370±32、OT:121±38)
・1日の生活(AM8~PM5)
リハの時間→5.2%
その中で麻痺上肢の使用6%
それ以外の時間は1%しか使っていない。
つまり、、
単に使用回数が少ないだけでなく、麻痺側上肢を用いている時間も短いことが指摘されている。
難易度・やる気
やる気
神経伝達物質:ドーパミン→前頭葉、大脳基底核、帯状回などに作用する。
=運動、学習、快感に関与する。
→CVA後に関わると示唆されている。
CVA患者での研究
1.において有意な運動機能回復(Rivermead Motor Assessment:運動機能全般と上肢機能の評価)がみられた。
したがって、ドーパミン系が運動機能向上の可能性を示唆している。
また、ドーパミン系は達成感などの快感を得たときに多く放出される。
→臨床では、適切な目標、達成感、満足感を得られるようにすると、ドーパミン系の活動を促し、患者の運動機能促進を図ると期待できる。
難易度
難易度に関しても、皮質の可塑的変化に関与しているとされる。さらに、ドーパミンとのかかわりも深いことが分かっている。
サルの研究では
50%の確率で餌が出るように設定すると、ドーパミンニューロンの活動が最も高くなる。
=報酬が50%の確率の課題のとき、もっともやる気up
実際の臨床では、患者個人の背景異なり、80%くらいが好ましい。
※患者に合わせて難易度を調整し、徐々に上げていくことを、「シェイピング(Shaping)」(行動を形成する)(korenのシェイピングの10の法則)
報酬の活用
”褒める”という行為は報酬系として知られている、線条体の活動が高まる。
実際に、リハビリ介入期間に差はなかったが、歩行速度の向上が報告されている。
しかし、言葉遣いやタイミングなどが重要になる。
また、褒める以外にも会話や休憩、ラポールの形成も報酬として挙げられる。
リハビリ時のひとにとって豊かな環境とは
以下の項目を考慮する必要がある。
1)患者間の交流促進
・機能レベルに近い人で、競争的トレーニング
・共同作業
・障害受容の促進
2)やりがいのある課題の遂行
・集中力を要し、興味の湧く課題
・適度な緊張
・病前の趣味、特技と関連させる
3)満足感のあるリハプログラムの提供
・多様性、成功感、疲労感
・明確な目標とフィードバック
→Full time integrated treatment (FIT)プログラム
①能動的に働きかける環境の整備
②週に7日、1日中のトレーニングによる量の確保
③IT技術を核とし、訓練室一体型病棟やLAN,Thの複数担当制などを導入
脳卒中後の回復メカニズム④
シナプス形成
脳の可塑性において、神経ネットワークの再構築は重要な過程であり、それはシナプス形成によって成り立っている。
シナプス形成は
興奮性結合と抑制性結合に分類される。
抑制性結合には、シナプス前抑制と、シナプス後抑制が存在する。
シナプス前抑制は興奮性ニューロンとシナプス結合する標的ニューロンとの間のシナプス終末に、抑制性ニューロンから伸びた軸索がシナプスをつくり、興奮性ニューロンからの神経伝達物質の放出を抑制するものである。
これは、すべてのシナプスを抑制することはできず、神経終末接合部を部分的に脱分極させることから、わずかにその興奮は伝達される。
シナプス後抑制は抑制性ニューロンから伸びた軸索が、標的ニューロンに直接シナプス結合し、標的細胞を過分極させる。それにより、興奮性ニューロンからシナプスはあるものの興奮性作用は抑制される。これは標的細胞そのものが過分極となるため、抑制効果が大きい。
抑制性に機能する回路=GABA回路
↳成熟した脳は、余剰な興奮を抑え、除去している。
神経ネットワークレベルにおける可塑的変化機構
脳梗塞の周辺ニューロンは樹状突起を失うが、生きている場合もある。
発症後1~4wは成長促進過程が上昇し、結合性を高める。(Murphyら2009)
Dancause(2006)
CVA後の一次運動野の皮質再組織化過程について
手指は、手指の領域と、前腕の領域の両方からの入力を受ける。
一次運動野の手指領域の損傷により、抑制ニューロンが解除され、手関節、前腕の領域から手指への入力が活性化し、手関節、前腕の領域が拡大する。
それに伴い、運動前野の手指の領域が小さくなる。
対側半球も同様に抑制ニューロンの解除が起き、対側半球の一次運動野、運動前野の手指領域の拡大の可塑的変化が起こる。
⇒この状態が、
シナプス受容体の密度の変化がおこり、新たなシナプスが形成され、神経ネットワークが促通される。
また、損傷部と隣接領域が抑制されて、一次運動野のの手指領域の拡大が起こる。そして、新たなニューロン結合が起こり、軸索萌芽が起き、神経ネットワークが再構成される。
脳の可塑性に影響する因子
伝統的アプローチ
・感覚情報や環境の豊富さ
・感覚-運動系
・それらの遮断や損失
新たな未来へのアプローチ
・移住、移動
・文化、教育
・識字能力
脳卒中後の回復メカニズム③
中枢神経損傷後の回復機序
中枢神経損傷には2種類存在し、
・神経細胞死→細胞そのもの
・神経ネットワーク損傷→神経回路の損傷で、重度の場合、複数の神経学的障害が現れる
回復過程としては①アンマスキング ②発芽形成(Sprouting)がある。
①アンマスキング(unmasking)
普段は主要なネットワークに隠れているが、損傷すると顕在化し、経路となって表れる。
例)非交叉性皮質脊髄路の動員
交叉70~90%
同側10~30%
通常は対側半球支配だが、神経損傷が起きると同側支配となる。
Wardらは
CVA後の患者に対して把握練習を行うと、両側領野活動がみられる。
→回復後対側に戻る。
⇒アンマスキング不要となり、対側半球支配へ戻ることが示唆される。
②発芽形成
メカニズムとして不明な点が多いが、末端突起を伸ばしていく。
その要因として2つ挙げられる
①脳由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic factor;BDNF)
②神経成長因子(nerve growth factor;NGF)
突起を伸ばすのには誘導が必要
→グリア細胞=神経幹細胞から分化しニューロンの支持をしている。ニューロンの10倍の数存在している。
・アストロサイト(最大。ニューロンの化学物質を運ぶ)
・オリゴデンドロサイト(軸索に巻き付きミエリン鞘となる。)
ニューロンが損傷すると
1.ミクログリアの食作用
2.同時にサイトカインを放出しながら、それが引き金となりアストロサイトによるグリア化が起きる。
3.このとき、アストロサイトはBDNFを放出する。神経修復にとって有利な環境を形成しニューロンの発芽を促進する。
脳卒中後の回復メカニズム②
シナプスレベルでの可塑的変化
①ヘッブのシナプス可塑性モデル
同時に活動する場合はシナプス強度が増強し、
片方のみの活動の場合は弱化するというモデル。
⇒使用頻度の高い神経ネットワークを活性化し使用されていないネットワークを弱めている。
〇学習、記憶に関与している。
②長期増強と長期抑圧(long-term potentiation;LTP long-term depression;LTD)
①の基礎となる。
興奮性入力を高頻度、短時間刺激すると、その後高頻度入力を受けたシナプス伝達効率が明らかに向上する。その状態が長期持続する現象のことをLTPという。
(海馬の研究に多い。)
↳ウサギの海馬の貫通路軸索に低頻度電気刺激を与え、興奮性シナプス後電位(excitatory post synaptic potential:EPSP)を誘発する。その後、テタヌス電気刺激を加えることで再び低頻度刺激に戻してもEPSP振幅増大が長期化する。
小脳では、プルキンエ線維は小脳皮質からの唯一の出力ニューロンとなり、平行線維、登上線維の2つから入力されている。
平行線維、登上線維からの刺激が組み合わさり、反復されるとEPSPの振幅が減少する
=LTD
③神経細胞の構造的変化
学習や経験に応じた長期的変化→形態学的構造変化を生じる。
ラットにおける代表的な学習依存性の変化
・運動皮質に樹状突起の分枝拡大
・樹状突起のスパイン密度の増加
・有孔シナプスの増加
・多重シナプス終末の増加
kleim らはラットに普段行わないようなアクロバティックな運動を1日に3回、5-10日間行わせるだけで、大脳運動皮質のシナプス数増加すると報告している。
④homeostatic plastcity
ニューロンの発火頻度増加すると興奮性シナプス入力が減少し、反対に過剰に発火頻度が低下すると興奮性シナプス入力が増加するというメカニズム。
これで、恒常性を保っているという考え方。
脳卒中後の回復メカニズム①
脳卒中後の回復とは
・神経学的回復(impairment)・・・自然回復、脳の修復、再組織化を反映する。
・機能的回復(activity limitation)・・・ADL、セルフケアの関与。リハビリ職として質、量が問われる。また、必ずしもimpairmentの回復は必要なく、補助具や環境設定において機能的回復を促す。
また、発症前に戻ることを回復、異なる状態を代償とする。リハビリとしては、impairmentの回復を促すが、この代償的手段の検討をする必要がある。
回復の時間的研究
JorgensenらのCopenhagen Storoke Study
impairmentの回復 95%が11週間以内に最善の回復に至る
(軽症6週 中等度10週 重症11週以内)
activity limitation 95%が12.5週以内に
(軽症5週 中等度9週 重症16週以内)
2週間のギャップがそんざいする。
⇒回復にimpairment を使用しながらADL向上を図っている。
神経学的回復のメカニズム
その大部分が3か月から6か月以内で起こることが一般的な解釈とされている。
以下にその要因を挙げていく。
①脳浮腫からの回復
損傷部周囲の組織、神経細胞を圧迫しその連絡を遮断している。最大で8週ほど継続する可能性があるが、ほとんどが発症初期で終了する。
梗塞<出血 で浮腫の影響が強い
②虚血性ペナンブラの改善
虚血中心部が真の病巣となり、そこが最終的には脳梗塞部位となるが、周囲の中等度以下の血流領域となっている部分をペナンブラという。
この部位は脳梗塞のリスクがあるが、血流の再灌流により臨床的な回復につながる。
③機能乖離(diaschisis:ディアスキシス)
損傷部と連絡があるが離れた遠隔領域の機能障害が起こること
例)視床損傷
頭頂葉と連絡しているため、頭頂葉障害(半側無視など)がみられることあるが、自然回復することが多い。
④脳の可塑性、再組織化
可塑性・・・弾性限界を超える外力によって生じた変形が外力を除いてもゆがみとして残る性質
脳・神経の可塑性
・年齢と環境と関係アリ
=シナプス伝達効率化として捉えることができる。
神経可塑性における3つの概念
脳の再組織化は長期間継続的に認めることができる特徴があり、リハビリテーションの影響を大きく受ける過程と解釈できる。
Nudoらは(2003)動物実験に基づき運動学習中に起こる脳の変化を示し、それはシナプス形成やシナプス結合の強さに関係することを述べた。
以下に3つの概念を示す
1)正常脳におけるスキル化した運動の習得は、運動皮質内での予測できる機能的変化に関係すること
2)脳卒中後の運動皮質の損傷は、残存皮質内の機能的変化の結果となる
3)脳卒中後、上記の(1)、(2)が相互に関連してスキルの獲得と皮質再組織化を引き起こす